初めて江戸川乱歩作品を読みました。タイトルは「孤島の鬼」という長編探偵小説です。
ページ数はなかなか多く、この小説が世に出たのが1929~1930年頃ということなので、昔の表現が頻繁に使われるため読み終わるまでに少し時間はかかりました。
しかし内容は興味深くかなり引き込まれましたね。また、現在の日本ではなかなか表現しづらい内容や言葉が出てきて驚くこともありました。
そして何よりこの作品が昭和初期にできた、ということに驚きです。
あらすじからの注目ポイント
内容紹介
私(蓑浦金之助)は会社の同僚木崎初代と熱烈な恋に陥った。彼女は捨てられた子で,先祖の系譜帳を持っていたが,先祖がどこの誰ともわからない。ある夜,初代は完全に戸締まりをした自宅で,何者かに心臓を刺されて殺された。その時,犯人は彼女の手提げ袋とチョコレートの缶とを持ち去った。恋人を奪われた私は,探偵趣味の友人,深山木幸吉に調査を依頼するが,何かをつかみかけたところで,深山木は衆人環視の中で刺し殺されてしまう……!
出典:本書あらすじ
おおまかな内容としては、人が殺されてしまい、その犯人を捜すといったいわゆるサスペンスものです。
しかし単純なサスペンス、というだけでなく様々な要素が加わりひとつの大作となっています。
大抵色々な要素が集まると、何かしら邪魔になってしまうこともありますが、この孤島の鬼ではそれはありませんでした。
あらすじを見て興味をそそるのが、いきなりあらすじで2人の人物が殺されてしまっているという点です。
しかもそのうちの1人は、主人公の恋人という…主人公の復讐がメインになってきそうです。そしてその調査を頼んだという探偵趣味の友人も殺されてしまうというかなり血の濃い話のようです。
そして注目すべきポイントが、殺された主人公の恋人の詳細です。彼女は捨てられた子で、何故か先祖の系譜帳(家計図)を持っていました。しかし先祖がどこの誰かとはわからない。
そして殺された場所は完全に戸締りをした密室。つまり密室殺人だったということです。
そして奇妙なのが、犯人が手提げ袋とチョコレートの缶を持ち去ったということ。手提げ袋には何が入っているかで状況が変わりますが、チョコレートの缶は不思議です。
人を殺しておいて平然とチョコレートを持っていくなんて、よほどの殺人鬼か、それとも…
感想
ここからはネタバレを含みます。これから読もうと思っている方はこれ以上読まないことをオススメします。
この作品のレビューを見ると、意外と同性愛のことを取り上げている方が多く見られるような気がします。主人公の蓑浦に対する、先輩の諸戸の愛ですね。
確かに当時は今よりも珍しかったのかなと思います。今のように考え方が柔軟ではなかったと思いますので、それが多くの人には興味を注いだのかもしれません。
また今ではBLというジャンルが確立されたことからみても、そのような同性愛に興味を持つ人も多く、過去の作品でありながら表現されている同性愛に面白さを感じた人もいるでしょう。
しかし私にとってこの作品の一番取り上げるべきところといえば、やはり諸戸の父・諸戸丈五郎の悪業でしょうね。
私からしたら、こいつは相当な悪です。人殺しを依頼し、実際に丈五郎本人も人を殺しています。
しかし私的に一番許せないのは、自らの手でかたわ者(今で言う障害者)を作りだす、という行為です。ある意味殺し以上の非情な悪と思います。
そしてその理由が、『自分がかたわ者で健常者に馬鹿にされた恨みがあった』という…
まあわかりますよ。それも酷い行為です。だからといって彼のやってることは到底許せるものではないでしょう。
個人的にこの小説で一番の衝撃でもあり、それゆえに引き込まれてしまった部分でもあります。そのぐらい驚く内容でした。
レビューなどを拝見すると、江戸川乱歩の最高傑作のように書かれています。が、私的にはストーリーに対してではなく、これほどの悪を書いたことに対しての評価なのかなと思いました。
結局丈五郎は最後は精神がおかしくなってしまい、その後然るべき処罰を受けたとありますが、個人的には納得できなかったです。
しかし物語の結果には概ね満足しています。
人工的に他人とくっつけられてしまった秀ちゃんと蓑浦は一緒になり、財産ももらうことが出来たので丸く収まったのは良かったと思います。
ただ諸戸が死んでしまったことと、結局彼の恋は実らなかったことを考えると可哀そうですね。彼は辛い人生だったと思います。