こんな方々のために書きました
- 小説「ハサミ男」読んだ!
- 他の人の評価が気になる!
作家「殊能将之」さんのデビュー作であり、第13回メフィスト賞を受賞した「ハサミ男」。
【叙述トリックの傑作】として多くの方がおすすめしているミステリー作品です。今回はその感想をご紹介します。
なおこちらの作品、ハマる人にがかっつりハマり、ハマらない人には何も刺さらない、といった評価が多いようです。
ちなみに私は…どちらでもない、と言わせていただきます。気になる方はこの続きをご覧ください。
あらすじ
美少女を殺害し、研ぎあげたハサミを首に突き立てる猟奇殺人犯「ハサミ男」。3番目の犠牲者を決め、綿密に調べ上げるが、自分の手口を真似て殺された彼女の死体を発見する羽目に陥る。自分以外の人間に、何故彼女を殺す必要があるのか。「ハサミ男」は調査をはじめる。精緻にして大胆な長編ミステリの傑作!
出典:講談社文庫より抜粋
レビュー・感想
これ以降はネタバレ含みます。また小説の性質上、私の解釈が作者の解釈と異なっている可能性もあります。
『脳がバグった…』この小説を読んでいるときに感じた感覚を一言で表すならこの一言です。
まず「叙述トリック」に関して。これは私は全然わかりませんでした。そうゆう意味ではかなり良い作品だったと思います。
【叙述トリックの傑作】なんて、騙されるために読んでいるようなものですからね。ちゃんと騙される自身の賢くない知能に感謝したいと思いました。
この手の小説を読んでいる際は基本騙されます。しかし今回はその中でもかなり特殊な体験です。小説を読んでいてこんな感覚になったはきっと初めてだとと思います。
それは答えが明らかになった瞬間、つまりハサミ男=女性だった、と分かったところです。
私の中で、普段無意識に感じるのは「どんでん返し」「大どんでん返し」という違いです。その違いを文字にすると以下のようになります。
私にとって「どんでん返し」とはつまり【Aだと思っていたものがBだった】という感じ。これでも結構な驚きです。「Aかと思っていたがBか~!」という。数値にしたら70%ぐらいでしょうか。
それに対し「大どんでん返し」は【Aだと思っていたものが音符だった!】という感じ。「BでもなければCでもない!ましてやアルファベットすらない!」という。これはもうビックリです。数値は最大の100%です。
それを踏まえたうえで、ハサミ男はどうだったのか。
そうです。文字化けです。『Aかと思っていたが…ん?なんて書いてあるんだ?読めん…』という感じでしょうか。なので数値にしたら0%です。だってわからなかったのですから。
きっと私のレベルをはるかに超えた作品だったのでしょう。今度は瞬時に理解できなかった自身の賢くない知能に怒りすら覚えました。
騙された方はみな同じだと思いますが、【ハサミ男=デブで髪が薄くなった独身のフリーター】だと思ったわけです。
そしてそのフリーター目線の話を呼んでいると思いきや、ある夜いきなりそのフリーターが家に来ます。そしてフリーターだと思っていた人間に対し女性の名を呼びます。
仮にこれが全然違う第三者で、デブのフリーターに向かって女性の名前を呼んだとしたら…『デブのフリーターって男じゃなくて女だったのか!?』というどんでん返しが発生していたと思います。しかしこのハサミ男はちょっと違う…
そこがこの小説のすごいところであり、私の脳をバグらせた瞬間。少し読み進めてようやく脳が正常に作動し始めました。
これがバグではなくびっくり仰天できたのであれば…最高に面白かった小説と言えたと思います。
他の人の評価
レビューサイトなどを拝見すると、一定の割合で「つまらなかった」「ハサミ男=女性と分かっていた」という感想を発見しました。
その理由が、「殺された女性に着衣の乱れがなかったこと(つまり性的暴行されていない)」ことや「ハサミ男の一人称が(わたし)でタイトルがわざわざ【ハサミ男】だったから」など…
私から言わせてもらえば、皆さん頭いいな…という感じです。ただ【叙述トリックの傑作】という本だからこそわかったのではないかと。(まあ私はその点の本と分かっていながら気づけませんでしたが…)
だって女性の体に興味のない男もいますし、一人称がわたしの男性ももちろんいます。これだけで「あー分かってましたよ」というのは少々信じられません。
これ以外にも「女性」というヒントはないものか再読しましたが、細かいところに色々女性ととれる内容が記載されていました。例えばトイレのシーン。
トイレで用を足したあと、立ち上がったわたしは、洋式便器をのぞきこんで仰天した。便器が真っ赤に染まっていたからだ。
出典:殊能将之「ハサミ男」より
トイレから立ち上がった時に尿が真っ赤だったと気づいた。これは女性と断定するヒントですね。最近では座って用を足す男性もいますし、尿が赤いといっても大便と尿を出した、ってことも考えられるので女性と断定はできませんが…(汚くてすいません)
また殺された女子生徒と関係があった体育教師と話す際、その体育教師はこのようにいいます。
「あんた、ひどく生意気な口のきき方するな」
出典:殊能将之「ハサミ男」より
これもやはり女性と断定するヒントですね。相手が男性だった場合は『あんた』とは言わず『お前』が自然だと思います。もちろんこれも断定はできませんが…
しかしこのように様々なヒントが隠されていたのは事実。ずーと「デブで髪が薄くなった独身のフリーター」を想像しながら読んでいた私にはまったく気づきませんでした。
ちょっとした不満
この小説でもう1つのトリックが「医師」というもう一つの人格の登場。この人格がまあよくしゃべるので、若干ウンザリしましたが。
その医師が自分のことを【自分が本当の意識で、ハサミ男のほう(サイコパスな人格)が妄想から作り出されたのもの】といいます。そして最後の入院しているシーンで医師そっくりな男性が入ってきて、それが父親だったというオチ。
この医師の言うことが正しければ、ハサミ男である「安永知夏」は自分を男性だと思っていた、ということでしょうか?そしてその医師の見た目が父親と同じで、なぜか父親のほうが若く見える、というのはどうゆうことなのでしょうか?
うーん。わからない。
そしてハサミ男の犯罪の理由は結局何だったのでしょうか?女子高生ばかりを狙うということは、男子高校生ではだめだったわけで、熟女もおっさんでもなく女子高校生でした。
なによりハサミを突き立てた理由は何だったのでしょうか?ナイフではなくハサミだった理由は?
何かしら意味ありげな女子高生&ハサミという彼女の中の決まりがあったにも関わらず、その理由に関しては語られず…しいて言えば「サイコパスだった」ということだけ。
ズルいと感じたのは私だけでしょうか?
まとめ
いかがでしたか?総評としてまとめると以下のようになります。
- 真相がわかった瞬間に脳がバグる
- 高度なミスリードで騙される
- 全ての謎が明らかにされないのは残念
脳がバグった作品は初めてだったので、そうゆう意味では読んで満足な小説でした。ただしもう少し控えめな大どんでん返しが良かったですね。(わがまま)
他にも小説のレビューを掲載しています。お時間ある方は是非ご覧ください。