作家「綾辻行人」さんの著書【館シリーズ】。
多くのミステリー小説好きから評価されているこのシリーズ。私自身もこれまで存分に楽しませていただきました。そして今回は全9作品ある中の8作目の作品、びっくり館の殺人。
今回はこの内容と感想をネタバレありでご紹介します!同じくこの本を読まれた方、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです!
先に評価を言わせてもらうと…ちょっと残念な感じです!
あらすじ
あやしい噂が囁かれるお屋敷町の洋館、その名もびっくり館。館に住む少年と友だちになった三知也たちは、少年の祖父が演じる異様な腹話術劇におののくが……クリスマスの夜、ついに勃発する密室の惨劇! 悪夢の果てに待ち受ける戦慄の真相とは!?
出典:講談社文庫 作品内容より
ざっと内容紹介
これ以降はネタバレ含みます。ご注意ください。
物語の主人公「永沢三知也」は 同級生の「湖山あおい」と、その従兄弟の大学生「新名努」の3人で、びっくり館に訪れます。そこには館の主人である「古屋敷龍平」がいるわけでしたが、彼はある部屋で殺されていました。
部屋は完全な密室状態で、人形のリリカがうつろな目をして座っていました。
その後、三知也は父親の仕事の都合で海外へ引っ越すことになっており、その館の少年で友達の「俊生」がこの後どうなるのかすごく気がかりだったが、三知也にはどうすることもできなかった。
その事件の4か月前の8月。
小学6年の夏休みの終わり、三知也は英会話教室の帰りに怪しげな噂の多いびっくり館にて、そこに住む「古屋敷俊生」と出会う。
俊生は体が弱く学校にあまり行っていないので、三知也と同じ歳だが学年は一つ下。家庭教師を雇って家で勉強していた。また、俊生は母と姉を亡くしていて、祖父と2人でびっくり館に住んでいた。
三知也は俊生に、姉が亡くなった原因を聞いたところ二年前に亡くなったことだけ教えてくれ、あとは濁された。
実は三知也にも二年前に亡くなった兄「十志雄」がおり、三知也も詳細は濁した。
そこで三知也は俊生のおじいちゃん「龍平」に初めて会う。
三知也の兄の死因はいじめを苦にしての自殺。いじめの主犯格を巻き添えにして屋上から飛び降りたので仇討ちも兼ねていた。
それにより三知也の母は精神的におかしくなり、両親は離婚。三知也は父親と暮らすことに。
三知也は俊生と会うようになり、ペットを見せてもらったり、家庭教師の新名さんと出会ったりする。そしてびっくり館に興味を持っていた新名さんのいとこでもある同級生の「あおい」とも仲良くなる。
その後、龍平氏が三知也とあおいに「リリカ」を紹介する。リリカとは腹話術用の人形で、龍平氏が腹話術を見せてくれた。途中で龍平氏が発作を起こし、途中で中断することに。
その後、三知也は島田潔に会い、びっくり館がいわくつきなことを教えられる。
ある夜、三知也は俊生に呼び出され、誕生日プレゼントとして仕掛けをとくと開けることができる【秘密箱】をもらう。
そして父親の仕事の関係で三知也は年明けにアメリカに行くことに。
その後、俊生の誕生日会が行われ、三知也とあおいと新名さんの3人は龍平氏の腹話術を見せられるが、その内容に驚愕する。
後日、俊生は龍平氏に虐待を受けているのでは無いかと推測。そんな中今度はクリスマスパーティに誘われることに。
パ―ティ前日、ようやく秘密箱を開けると、中には【Help us】と書かれた紙が入っていた。
そして当日、物語の冒頭の通り龍平氏の遺体を発見する。そしてこれは物盗りによる犯行と断定された。
しかし、真相は違うものだった。この時部屋にいたのはリリカの服を着た俊生だった。
※最初の誕生会で行われた腹話術も人形ではなく俊生が使われていた!なので3人は驚愕したのだった!
3人は殺したのは俊生と思い、彼に同情し事件の形を変えて物盗りによる犯行に見せかけ偽装する。
長い月日の後、三知也はびっくり館へ。そこにはなんと俊生とあおいがいて、梨里香の誕生日を祝おうと誘われる。
そのときの俊生の目にはこの世のものとは思えない色をしていた。
レビュー・感想
まず先に断っておきたいことは、今回の館シリーズは「子供向け」ってことなんですよね。子供のための本「ミステリーランド」というレーベルから出たそうで、今までの大人向けではない、とのこと。
ということで描写も残虐でグロイというのは特になく、今までの館シリーズに比べるとかなりさっぱりした感じでした。
終わった後に他の方の評価をインターネットで発見した際に、「これは子供向けですよ~」とのことを知り、『あー、なるほど』と理解できた感じです。しっくりこなかったのは、私が大人になってしまった、ということなのでしょう。
子供向けのせいなのか、読んでいてハラハラすることもなく、なんとなくジトーっと進んでいく展開に合わせてこちらもあまり興奮もせず…
逆に残りページが少なくなるにつれ、『いいのか?!この残りの薄さで解決できるのか?!』と別の意味でのハラハラを味わったほどです。
そして肝心の本全体の評価としては、やはり『うーん…』という感じでした。館シリーズが大好きだったので、期待しすぎていたように思います。
まず今回の最大のトリックに関して、「腹話術の人形が実は俊生だった」というもの。これは確かにびっくりしましたが、読んでいた時の感想は『そりゃズルいよ…』って思いましたね。
確かに読み手の少年「三知也」の伝え方なので、我々に『腹話術の人形が全然別物だったのです!』=『腹話術の人形が実は俊生だったのです!』ってことでもいいと思うんですが、それを言ったら何でもできてしまうような気になりまして。
例えば『腹話術の人形なんて元々いなかったのです!』とか『おじいちゃんではなく、おばあちゃんだったのです!』とか『そもそも僕日本人じゃないんです!』とか…(だから何なのか)
確かに「腹話術の人形が実は俊生だった」とわかった後に再度腹話術のところを読み返すと、かなり狂気です。怖いです。『こいつらヤバいな…』と感じるでしょう。
そうゆう意味での「ホラー要素」を感じれたのは、なかなか面白かったと思います。このようなホラーがあったのは2作目の水車館の殺人以来でしょうか。
そして最後のオチ。正直最初読んでいるときはよくわかりませんでしたが、他の人の感想を読むに【俊生によって仕組まれていた】ということで、さらに言えば【館が住んでいるものに乗っ取った=悪魔にした】というような解釈もありました。
そうゆうことであれば確かに姉の梨里香が母親に「悪魔の子」という理由で殺されたのも、通じるといえば通じます。つまりお母さんが狂っていたわけではなく、狂ってしまった梨里香を殺した「普通の人」だったということですね。(まあ、普通の人は殺したりしないですけど。。)
そして最後に主人公の三知也がびっくり館に行った際に、友達の”あおい”もいて、『これから梨里香の誕生日会』なんて言ってるぐらいですから明らかにおかしいですし、その時の俊生の目が『この世のものとは思えないオレンジ色の…』とのことなんで、もうオカルトエンドですね。
個人的にはやっぱり裏切られた感じです。最後そこに結びつけられちゃったらどうしようもないな、と。
結局おじいちゃんの『なぜこんなことをさせるんだ…』のところや、梨里香の父親というケダモノ。また俊生からのプレゼントにあった”Help us!!”の文字。この辺が何もわからずじまい。
これらを全て【館が住んでいるものに乗っ取った】ということで、悪の元凶を【館】ってことにすれば、確かに辻褄は合います。というか無理やり合わせられます。
でもそうなっちゃうと解釈次第で何でも可能になってしまうので、私としてはやっぱりモヤモヤは晴れません。
ただやっぱり不思議な事件はたくさん起こるとは言え、【館自身が元凶】になっちゃうと今までの館の見方が変わってきちゃうというか。。『じゃあ今までの中村青司が建てた館はなぜ何もないのか?』ってことにもなるので…
やっぱり個人的には【館が住んでいるものに乗っ取った】というのは望ましくない形ですね。あくまで【中村青司のいわくつき】ってぐらいで止めておいてもらったほうが、ゾクゾク感が増します。